インドネシア政府は、グローバルな半導体サプライチェーンにおける地位確立に向け、半導体チップ設計(IC設計)に特化した専門エンジニアを1万5,000人育成する国家目標を発表しました。AI(人工知能)やEV(電気自動車)の急速な普及を背景に、産業構造の高度化を一気に加速させる方針です。
資源から「知」へ:ヒリリサシの進化
これまでニッケルなどの鉱物資源加工(下流工程化=ヒリリサシ)に注力してきたインドネシアですが、その戦略は今、デジタル・ハードウェアの最深部へと到達しようとしています。
- 戦略の狙い: 単なる組み立て工場ではなく、付加価値の極めて高い「設計」分野に食い込むことで、中所得国の罠を突破する。
- 背景: 米中対立によるサプライチェーン分散(チャイナ・プラス・ワン)の流れの中で、インドネシアを「設計拠点」の代替肢として提示する。
1万5,000人という「野心」の壁
IC設計には高度な数学的知識と専用ツール(EDA)の習熟が必要であり、育成には時間と多額のコストがかかります。
- 主要な課題:
- 教育インフラ: 国内大学における微細加工技術や電子設計専攻の拡充。
- 産学連携: 海外の半導体大手(NVIDIA, TSMC, Intel等)との技術提携やインターンシップ制度の確立。
- 投資誘致: 育成した人材が活躍できる「IC設計ハウス」やデータセンターへの優遇措置。
日本企業へのインパクト
日本の半導体製造装置メーカーや、設計受託企業にとって、インドネシアは「安価な労働力」ではなく「高度なパートナー候補」へと変貌しつつあります。
- 新たな商機: 日本の優れた教育ノウハウや設計ツールの提供、共同開発拠点の設置など、協力の余地は広がっています。
✍ 筆者あとがき:ジャカルタに「設計図」を書く手が増える日
日本の半導体業界にとって、インドネシアは長らく「有望な市場」ではあっても「設計のパートナー」ではありませんでした。しかし、この1万5000人という目標が動き出せば、その関係は根底から変わります。
単なる「安価な労働力」ではなく、先端技術を共に描く「頭脳の集積地」へ。ジャカルタの日本食レストランで、日本の技術者とインドネシアの若手エンジニアが、数ナノメートルの世界について熱く議論を交わす。そんな光景が日常になる日は、案外すぐそこまで来ているのかもしれません。資源を売る国から、知性を売る国へ。その脱皮の瞬間に立ち会えるのは、ビジネスマンとしての醍醐味と言えるでしょう。



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