インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)は2026年2月、現政権の最重要政策である「無料栄養給食(MBG)」および「赤白協同組合(Koperasi Merah Putih)」の実施過程における汚職リスクの事前評価(ミティゲーション)に着手すると発表しました。巨額の国家予算が地方に分散して投じられるため、調達の不透明性や不正を未然に防ぐ「予防的監視」が狙いです。
監視対象となる2大国家プロジェクト
いずれもプラボウォ大統領が「食料安全保障」と「経済格差是正」のために強力に推進している事業です。
- 無料栄養給食プログラム(MBG): * 児童・生徒への栄養供給を目的とした年間数十兆ルピア規模の巨大事業。
- 全国の「給食センター(SPPG)」が食材調達のハブとなります。
- 赤白協同組合(Koperasi Merah Putih): * 農村部の小規模事業者を束ね、流通の中抜きを排除するコミュニティ主導の経済組織。
- 組合設立や運営への助成金、低利融資など多額の公的資金が動きます。
KPKが懸念する「3つの汚職リスク」
事業の性質上、従来の大型インフラ建設とは異なる次元の監視の難しさがあります。
- 分散型調達の死角: 全国各地の給食センターでの個別調達となるため、地方の有力者と業者の癒着、食材価格の水増し(マークアップ)が生じやすい。
- サプライチェーンの不透明性: 農産物の流通ルートにおいて、実体のない中間業者が介在し、予算が「消える」リスク。
- スピード実施による統制不全: 「就任後即実施」という政治的スピードが優先され、監査のガイドラインや報告義務が後手に回る懸念。
KPKの戦略転換:摘発から「システム構築」へ
今回の措置は、KPKが近年注力している「予防(Pencegahan)」というアプローチを象徴しています。
- デジタルトレース: 調達プロセスの電子化(E-Katalogの徹底利用)を政府に要請。
- コミュニティ監視: 住民や保護者がスマホ等で報告できるシステムの導入検討。
- 政策設計への関与: 汚職が起きにくい予算執行ルールの策定を関係省庁と協議。
✍ 筆者あとがき:子供たちのスプーンを汚さないために
「無料給食」という言葉には、多くのインドネシアの親たちの切実な願いが込められています。しかし、その給食の中身が、もし水増し請求や中抜きによってスカスカなものになってしまったら……。それは単なる金銭的な汚職ではなく、この国の未来に対する「裏切り」に他なりません。
2026年、インドネシアが先進国入り(OECD加盟)を目指す中で試されているのは、GDPの数字ではなく、こうした末端の予算執行における「潔癖さ」です。KPKの監視が、現場の職員にとって「面倒な手続き」ではなく、子供たちの口に入るスプーンを清潔に保つための「防護服」として機能することを切に願います。



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